マッシモ・メルキオッリ

中山靴店で靴を買った。
9年履いた靴の踵が擦り減ってほとんど無くなっていたので修理に出したのだ。
久しぶりに訪れた中山靴店はスタッフさんも増えてお客さんもたくさんいた。
しかし紳士靴は一棚くらいに集約されていて、ほとんどが婦人靴だった。
修理のついでに二足目を買おうかなと思ったけど、スタッフさんが全員対応中でかなり待ちそうだったのでその日は諦めて帰った。

一週間後、修理に出した靴を引取に行くと、お店は前回より空いていて、店長の中山さんが対応してくれた。
昔、中山靴店が玉野のハピータウンにあった頃、ドイツの『ゼファー』というブランドの靴を思い切って買った。
深い緑色の革のスニーカーで、それまで2、3千円のスニーカーしか買ったことがなかった僕には大冒険だった。
その時接客してくれたのが当時の中山店長だった。
欧州かどっかにサッカー留学までして選手を目指していたけど、ケガで挫折。そのまま無一文、無報酬で外国の靴職人に弟子入り。
『こいつは給料なしでこんなに努力する奴なのか』
と周囲に認められ、ゲゼレという、足の外科知識を持った靴職人の資格を取得して帰国。実家の靴屋を甦らせた人だ。

そして中山靴店が表町の天満屋の地下に店を構えた時にオーストリア製の『シンク』というブランドの靴を買った。
オリジナルの中敷と合わせてすごい金額だったけど、一生ものと思って買った。その時も中山店長に接客してもらった。
(すごい金額といっても、本当に上質な靴を買ったらそのくらいするし、それこそ1から仕立てたら靴だって何十万もするという事は後に知った。)
僕はその時にゼファーの靴を履いていった。
すると中山店長が「その靴は!」と反応してくれて、シンクを紹介してくれたのだった。

そして時は流れ、9年履き込んだシンクを修理に出してた。
『いい感じに履き込んでるね!』と中山店長がまた誉めてくれた。
そして二足目を所望すると、3足の靴を紹介してくれた。
1足目と2足目は前回来た時に棚に置いてあったスペイン製の靴と日本製の靴だった。どちらもリーズナブルな価格帯で、履いた感じも良かった。

そして3足目に紹介してもらったのが中山店長の肝入りという靴。
イタリア製の『マッシモ・メルキオッリ』というブランドの靴だった。

元アルマーニのデザイナーさんが手がけた靴で、実際に中山店長がこのデザイナーさんに会いに行って製作を依頼したんだそうな。
見た目はシンプルながら、けっこうゴツッとした迫力がある。
イタリア製との事だが、どっちかというとイギリス靴のような感じがした。
しかしながら履いてみると意外にラインがスマートで、足のフィット感が3足の中でダントツだった。
それだけでなく、歩いた時の地面をギュッと踏みしめる感覚、安定感もしっかりしていて、歩き回る靴としての機能性の高さが期待できる靴だった。
僕はこの靴を買うことにして、中敷を調整してもらった。(さすがに中敷まで新調する余裕はなかった…。)

最後に中山店長がマッシモ・メルキオッリをピカピカに磨き上げてくれた。
とても嬉しくて、そのまま履いて展示会場に向かった。
在廊中、修理し終わったシンクと履き比べてみたりした。履き込んだシンクは革も柔らかくなっていて足に馴染んでいる。
新作の靴はまだ革は硬かったけど、足を包み込むような履き心地だった。
靴を履いているというより、足を革でコーティングされているような感覚だ。

昔、陶器の会社に勤めていた頃、上司に靴のことをいろいろ教えてもらった。
その上司は就職した時に買った革靴を20年履き続けていて、その靴はいつもピカピカだった。そこに影響されて神戸までクロケット&ジョーンズの靴を探しに行ったことがある。
しかし、売り場の圧倒的な高級感と靴の値段に目眩がしそうだった。履いてみたけど、足に合ってるのかどうかも分からず結局買わなかった。
営業やブライダルフェアに行くときはいつも中山靴店のシンクを履いていた。
あのイギリスの靴よりこれがいいんだ!と思って履いていた。

クロケットやチャーチの靴は、このシンクやマッシモ・メルキオッリよりもずっと高かった。
中山靴店にも最初は『な、何だこの靴は!』というような、そこら辺では置いてない斬新な靴が並んでいて、値段もぐっと高かった。
今では価格帯はリーズナブルになったとはいえ、中山靴店ならではの機能性とデザインが両立した靴が並んでいる。
でも、マッシモ・メルキオッリを履いて中山さんの思いがなんとなく分かった気がした。
本当はこれが売りたいんだろうな。
しかし、岡山だと高いとしか思われないから、リーズナブルな価格帯を主力に女性層を狙い、その中で中山靴店らしさを追求しているんだろうな。
商売って難しくて奥深いなぁと思った。

履き始めて1ヶ月が経過したマッシモ・メルキオッリ。
履き初めの革の硬さはすぐになくなり、足にぴったりとフィットする。
歩き心地も素晴らしく、地面を力強く踏みしめて歩ける。

アウトソールには「MASSIMO MELCHIORRI Made in Italy」のプレート。
きれいに磨いた写真を載せればいいんだけど、あえて使用感のある感じで。

踵を修理した後の「シンク」。
マッシモ・メルキオッリに比べるとスニーカーのように軽く、足にもよく馴染んでいる。
普段使いでも、仕事用でも履いている。

靴磨きは素人ながら、履いたら磨くようにして、少しでも長く履けるように。

こちらもアウトソールには「Think!」のロゴ
年期を感じる。

修理してもらった踵。ラバー部分がまるごとすり減ってなくなっていた。

オシャレな箱は靴磨きの道具入れとして使っている。
靴屋さんのブログみたいになったけど、私は猫イラストレーターです。

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